魔法少女アリス



    私は、緑よりもはるかに深く、どちらかというと群青で、塗り固められたような森の中を歩いていた。
    特に当てはなく、散歩のようなもので「珍しい薬草が自生していればラッキー」という位な感じ。
    昼間であるのに、日光は総じて、青々と茂る葉に遮断されて、地面まで届く光は全く無いといってもいい。故にどの時間であっても常に暗く、薄気味悪い。
    光がない故に、地に生える草花は、日が無くても育つ植物やコケ類、きのこ等の菌類には絶好の環境となる。またそれ故に、人は好んで足を踏み入れない。だからこそ、それらを使う者には、ここは絶好の狩場となる。
    ここは魔法の森。名の示すとおり、魔法使いが好んで住み、「ただの」人間は足を踏み入れることさえ躊躇われる、不気味な森。そして、名は体をあらわすように、ここには私を含め魔法使いや、妖精、妖怪の類が絶えない。このことも、普通の人間が、足を踏み入れない原因になっているのだろう。だから、いつもはこの森は静かなのだ。
    でも今日は違った。

「今日は騒々しいなぁ」

    口に出して気がついた。森全体が、というより妖精がざわついている。いつもは多少うるさく飛び回っていても、大して気にならないのに、この日に限っては違った。         この騒々しさは、非常識な事態が起こっている証拠ともいえる。妖精はこういうことに一々目ざとい。
    それでも私は、別段それを脅威には感じなかった。
    第一に、騒がれているのは森だけ。つまり幻想郷全体には害はなく、あくまでこの森だけの局所的な出来事であること。
    第二に妖精の騒々しさは、自身の身に降りかかる危険に対しての騒々しさではなく、あくまで好奇心による祭りのようなものである、ということ。
    そして、最後に。これが最大の理由として、私が動いた「夏の宴会」や「永夜異変」とは違い、直接的な害が、私にはない。
    結論として、この事象に対して、私がわざわざ動く理由にはならない。
    しかし、主義主張を曲げても、今回の件には興味があった。それに、自分の庭ともいえるこの森で何か事件があったら、それはそれで気分は悪い。
    散歩のついでに、真相を確かめてみるのも悪くないかもしれない。そう自分を言い聞かせ、私は妖精たちが集まっている場所へと足を進めた。

    好奇心は猫をも殺す。そのときの私は、全然そのような事態になることを予想すらしなかった。そもそもこの世を普通に生きていたとして、誰があのような事態になることを想像できるだろうか。いま思い返しても、尚それは悪夢だと思いたい。いや思わせてほしい。
    さて、この後の事態は混乱するばかりなので、先に名乗っておくことにしよう。私の名前は「アリス・マーガトロイド」。種族、魔法使いにして、七色の魔法をも操れる、人形遣い。それが私。




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