晴れ晴れとした日が続いているのに、私の気分は一向に晴れる気がしない。というのも、花の一件以降、特ダネが見つからないのが原因だ。 逆に言えば見つからないほど幻想郷は平和なのだけど、そんなもの今の私の取り巻く状況からすれば、実はどうでもいい。 どこかの式神が猫を従えようが、嘘つきウサギの嘘が本当になったとか、そんな些細なことは端に置いといても差し支えないような記事は新聞にしても誰も見ない。 そして、巫女辺りに言われる。 「新聞がたまって邪魔」 と。それはもう、悲しいことに結果論なのだ。最近の中では、三途の川の川幅の算出の計算式が出来たとかが、一番おもしろい記事だろうか。小難しくて、私には、よくわからなかったけど。 そうやって選りすぐった結果、私の新聞「文文。新聞」の発行期間は、どこかの漫画家が急病を繰り返すかのように開いていき、時間に縛られないリベラルな新聞という題目は言い訳にすらなりそうにない。 他の天狗は次々にネタを見つけては、一のことから百の答えを導きだす。そして、次々に記事をでっち上げては発行部数を伸ばしている。というのに、私の発行部数は、変動することはない。もちろん悪い意味で。 幻想郷は今、徐々に紙が増えている。デジタルとやらが普及してきたというのが背景らしいが、私は紙とインクの匂いの方が性に合っていて好きだ。 その結果、紙が余るのだが、それがとても恨めしい。私の仕入れた紙は一向に減る余地がない上に、増えていくことに頭を悩ませてくれる。 「なんで、こう幻想郷は平和なのでしょうか。いや平和なのはいいことですけど。事件らしい事件も起きない。先日の花の異変だって裏が取れないから記事にならないし、なにより面白くないですから。こんなんじゃ次の大会も私の負け。うぅ……いい恥です」 このまま飛んでいても埒が明かない。今は、桜が美しく、その花弁の片付けに嘆く紅白がよく目立つ春と、暑い暑いといって、掃除をサボる巫女がよく見受けられる夏の境目。時期的には白黒と人形を遣う魔法使いが、きのこの使用の有無を巡って、あれこれ言い争う梅雨。 こんな半端な時期に事件なんて起きたら、それはけっこうな記事になりそうだけど、逆で言えばこんな半端に時期に幻想郷で起こるのは、いたずら好きな三匹の妖精が動き出すぐらいの程度で、なんにも起こりそうにない。 強いて、何か起こったことをあげるのならば、現在、空気を読めない雲が立ち込めて、今まさに私の真上から雨露を落としていきそうなことくらい。 私の頭上に雷が落ちれば、我が身をもって記事に出来そうだけど、そんな新聞誰も見るわけが無く、私は無意味に身を焦がし、徒労に終わるだけだろう。そもそも、私はそんなに献身的な方ではない。 そんなことを考えて飛んでいると、本当に頭上から雨が降ってくる。どうやら今日は、本当についてないらしい。 「困りましたね。このままじゃ埒が明きませんし、とりあえず雲の上まで上がりますか。ちょうどこの上は白玉楼の近くだし、騒々しい三姉妹ぐらいは見受けられるかもしれない」 鴉を肩に乗せ、一気に上昇する。ネタになりそうな様々な写真や、役に立たない雑記までもが書いてある大切な手帳は懐にしっかりと仕舞いこみ、水に濡れればすぐに使い物にならなくなる、アナログで、年代物の、命の次に大切な相棒はしっかりと抱きかかえた。流石、幻想郷最速(?)の私。音は後からついてきた。雲の上には一瞬で到着。すかさずカメラの動作確認。 適当にためし撮りして、フラッシュ確認。 「……よし。問題ない」 フィルムをまき、手帳も濡れてないことを確認した。「ふぅ……でも私のほうが、思ったより濡れちゃいました。服が肌にべっとりまとわり付いて気持ち悪いです。まぁ幸いにも、ここは晴れているから、服は乾きそうですけど」 見渡す限り、空と雲。本当に何もない。しかし、雨が降っているなら仕様がない。この上空にいるのは、騒霊と、生真面目な庭師。そして、大食いでよくわからない亡霊のお嬢様がいるだけだ。そういえば、かつての春が来ない事件も、このお嬢様が発端だったような気がするが、真実は未だにわからない。 ここお嬢様は、考えていることの全容が掴み難いので困る。こう幻想郷で長生きをする人は、それに比例して理解し難いことを言うのだろう。 生真面目な庭師の方が、何十倍も話しやすい。生真面目な人間ほど事件を隠したがらないし、わかりやすい。なにより話が掴み易い。 記事を書く者からすれば、理解し易い話ほど、余計な私情を挟まずありのままに事件を書ける。余計な解釈がいらない。これは意外に重要なことだ。とくに真実のみを記事にする私にとっては。 さて、今日もネタを探そうか。出鼻は雨によって挫かれたが、私の熱意は雨ごときでは乾かすし、冷めることはない。 次の大会のトップは射命丸文の「文文。新聞」がいただいてみせる。 |