「さぁそこ! 憧れの魔法少女になったうれしさで感極まってないで、次のステップに行きますよ」 「自分の恥ずかしくて、忌々しい格好を見て、寂しさと切なさと心細さが炸裂しているの!!」 「そんな昔の某格闘ゲームのアニメ映画の主題歌のような感想はいいですので、次はアーティファクト召還についてやりますよ」 私の切実かつ率直な意見は無視されて、容赦なく次の段階へと移行されていく。「まさかとは思うけど、アデアット(来たれ)なんて、ひねりも何もないような、パクリ呪文じゃないわよね?」 「ちっ……そんなことないですよ。せいぜい『レリーズ(封印解除)』とか『○○招来』位ですよ」 「どっちみち、だめに決まっているじゃないの。いい加減にしないと、主に講○社あたりに訴えられるわよ!!」 「ま、まさか冗談に決まっていますよ。ではこれからアーティファクトの名前を言うので、それを叫んでください。うまくいけば、万能型アーティファクトが現れますよ」 ふむ。万能型の魔法具が現れるのなら、それはそれでいいのかもしれない。しかし、まぁ、ももの言うことだ。少なくとも今まで信じて、吉へと転じたことは無い。二度あることは三度あると、偉い人はいっているので、おそらく良い事は一つも無いかもしれない。 「それではアーティファクトの名前を発表します。どんどんパフパフ。 「じゃあ一々確認を取るようなこと言わないで」 「耳の穴かっぽじって、よく聞いてくださいね。あなたのアーティファクトの名前は『ファミ○ブロス』です」 なんかすごく危なげな名前が聞こえた気がする。どのぐらい危険かというと、まだストーリーや複線の回収が満足にできていないのに、雑誌の休刊という名のリストラを言い渡された漫画家ぐらいに危ない。「ごめんなさい。一回しか言わないと言っていたけど、ちょうど羽虫が飛んでいたみたいで、よく聞こえなかったから、もう一回お願い」 「仕方ないですね。あと一回だけですよ」 この天然風味馬鹿人形は、この名詞の危険性を知っている。わざと言っているかのような、含みを持たせた上で、笑みを交えて面白そうに言う。「ファ○通ブロスです」 いまさらだが、これまで○が入っているところは、「キンキン」あたりの音を交えてくれるとありがたい。それほど面倒な名前であると思ってくれて結構である。「あんた馬鹿じゃないの?」 「馬鹿とは失礼ですね。ここ数年の間で幻想となって、幻葬された由緒正しきフ○ミ通シリーズの漫画雑誌じゃないですか。これほどどうでもいいバラエティーに飛んだ雑誌はそうそうありませんよ? カード使って悪魔召還だって出来きますし、もしかしたら、神様だって呼べるかもしれませんよ?」 「初めは、漫画と攻略の両方面で行っていたのに、途中まで方向性を模索していた雑誌で何をやれというの?」 結局最後は、有名絵師を起用して表紙にしたけど売れない。結構有名な漫画家と、どこからか発掘してきた新人さんが横行していて、よくわからないカードゲームも巻末等で扱っていた、不思議空間。需要と供給のバランスに、鎬を削っていたとしか思えないあれで、何をしろというのだろう。 自爆するピンクの丸い物体を投げつけて『極目』ろですか。 最近まで、某巨大掲示板で、関係するスレッドがDAT落ちして、本当に歴史から抹消されようとしている名前に、何の魔法的存在を感じなければならないのだろうか。理解に悩む。まず何人がこの名詞に、反応できるのかわかったものじゃない。 「そこまで言うのなら仕方ないです。アーティファクトを使うことはあきらめましょう。残念ざんねん。この業界、結構休刊が進んでいるから、召還には不自由していないのですけどね。ほら最近だと、集○社の月刊少年ジャ○プとかが候補に……」 「休刊した漫画本使って魔法が使えるなら、苦労しないわよ!! あんた絶対確信犯でしょ。」 「ぎくっ……そ、そんなことないのですよ?」 あからさまに「ぎくっ」とか言っていれば、隠す気がないって事と同義だ。本当に食えない奴である。「まぁいいわ。そういえばこの杖を使えば何が出来るの? 呪文回路が埋め込まれているくらいだから、何か出来るんだろうけど。やっぱり魔力が増幅したり、なんか狙撃したり、羽を出したり、用途に応じて、剣や斧や槍に変形したりするの?」 「なにを勘違いしているのかは知りませんけど、この杖はあくまで、撲殺用です。そんな夢みたいなこと、出来るわけないじゃないですか」 ということはあれですか、人にはあんなことやこんなことで言いくるめておいて、実際には格好だけですか。現代の魔法少女は、子供達に夢を与えるために、「ぷり○ゅあ」のように肉弾戦をしなければならないわけですか。「ふざけるのもいい加減にして。もしかして名前が「エスカリボルグ」とか言うんじゃないでしょうね?」 「流石にそれは無いですけど、それに近いものではありますね」 「『ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜♪』すら使えない撲殺兵器なんて使ったら、愛の無い、ただの『涙の血みどろ物語』じゃない!!」 「そりゃそうですよ。このSSは実は邪道魔法少女シリーズに感化されていますから、基本的に戦闘は肉体言語です。そのため衣装は動きやすいように、ジャージの素材を生かしたつくりになっています」 「んな!? 道理で、いやにスカートとかスースーすると思ったよ!!」 「そういうわけなので、どうしても魔法が使いたいなら、ご自慢の人形でも使って頑張ってください」 すばらしくぶっ飛んだ魔法少女ではないか。当初の説明と矛盾だけが生じている。この状況を打破するものはもう無いと思えて仕方が無い。それならばせめて、事態を好意的に解釈できる何かは無いものだろうか。「そうですね。それでは必殺技を伝授しましょう。これは最近開発された、新たな必殺技の形として確立されたものです」 「なんか耳をふさぎたくなるような謳い文句だけど、ここまで来ると何でも来いという気分になるから不思議よね」 「ついに本心から魔法少女になることを覚悟したのですね!!」 「あきらめたのよ!!」 「そうですか。そろそろ紙面もギリギリというか、作者が限界に近づいているので、無駄話せずに先に進みましょう」 「わかったわ。それで必殺技って言うのはなに?」 「はいわかりました」 ももが、息を呑む声が聞こえる。口にするのも躊躇われるような雰囲気に、こっちも息が詰まる。そんなにいわくつきの技なのだろうか。というよりやっぱりぶっ飛んだ名前しか出てこない気がする流れ的に。そう考えると、別な意味で息が詰まった。 「その必殺技の名前は『芽生えドライブ!!』です」 「……………」 時が止まった。比喩ではなく、息も止まった。無論それは感動して、口が聞けなくなったわけじゃない。開いた口が塞がらないだけだ。ひねり出そうという台詞は罵声である。 「もう私の前から消えてよ。まず、はじめにmarbleさんに謝れ、馬鹿!!」 もう涙が止まらない。「馬鹿とは何ですか。すごいのですよ「芽生えドライブ」。きちんと派生技があるんですから。 「しかし、この技は使用者にも大変な危険を伴います。出来れば使わないでもらいたいです」 「そりゃ訴えられれば危険よね」 「大丈夫です。あなたの足技もとい、足癖の悪さには定評がありますから、これだけでも十分乗り切っていけます。頑張れケリス!!」 「ケリスっていうな!! そもそも何を乗り切っていけばいいのよ?」 そもそも何と戦えばいいのかわからない。これじゃあこいつの趣味で、魔法少女にさせられたといっても過言ではない。記憶があいまいなのだが、魔砲少女と戦えとか言われた様な気もする。しかしまぁ、所詮人形の言う戯言だろう。信憑性もまったく無い。今ならあの2.5次元の頭に、蛆やシロアリでも巣くっていました、と言われても信じられる。ていうか巣くっていてほしい。 「あなたはいったい何を聞いていたのです? 言ったでしょ魔砲少女と戦えと。あなたの頭には消しゴムでも入っているのですか? それともシロアリ?」 「カキタレにしてやろうか?」 ギリギリというかミチミチという音を立てて、ももの頭が凹んでいくのが無性に楽しかった。「いやぁ。きゃ〜。たす…けぇ…てぇ。やめ〜くぁwせdrftgyふじこlp;」 昔見たコントみたいな悲鳴を上げて、私に哀願している。このままゴレンジャイが来ても困るので、放すことにする。「はぁはぁはぁ……た、助かりました。なんか顔が、緑色の弟のように長くなった気がしますが、話を続けます。」 「殊勝な心がけね。次からは言葉遣いに気をつけてね」 「あなたの相手は、ほぼあなたと同じ時間に変身した少女『霧雨魔理沙』になります。あなたが肉体言語を駆使する邪道魔法少女とするならば、魔理沙は某自由なMSのような圧倒的な火力を駆使する邪道魔砲少女です」 「普通の魔法少女はいないのか!!」 「そうですね。合体魔法を駆使する引きこもり型魔法少女ならいますが?」 「一番普通そうだけど、全然まともじゃないじゃない……」 疲れましたお母様。なんだかとっても眠いのです。「さて話がそれましたね。あなたは、あなたが気付かないうちに盗まれたものを取り返すために魔理沙と戦ってもらいます。何かわかりますか?」 「え〜と、確かに最近魔道書に、マジックアイテムに、非常食や日用品が勝手に持っていかれているし。それかしら?」 「いいえ。あなたのこころです!!」 鈍痛がした。私は人形を叩き落とすと、たった今教わった技を繰り出して、天空に巻き上げると、これまたさっき教わった技を使って、虹の彼方に吹き飛ばした。裸足のまま。 そのまま垂直落下してくる原形をとどめていない物体。私は上海人形に魔力を送り込むと、蓬莱人形、仏蘭西、和蘭、西蔵、京都、倫敦、露西亜、オルレアン持ちうる限り全ての人形にアクセスを開始する。 「ごっすん! ごっすん! 五寸釘!!」 もはや目も当てられない状態となった今でも、人形は次々と五寸釘をさしていく。今の私は、魔法少女の格好をした、魔女だった。 |